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盛岡地方裁判所 昭和57年(わ)17号 判決

本籍

岩手県岩手郡雫石町一五地割字下町九三番地

住居

同県同郡同町九地割字源太堂七七番地の六

司法書士、土地家屋調査士

簗場弘友

昭和九年二月七日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官水上盛市及び弁護人大沢三郎各出席の上審理して次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月および罰金九〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金三万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

罪となるべき事実

被告人は、岩手県岩手郡雫石町一〇地割字寺の下四七番地に事務所を設け、事務員二名を使用し司法書士兼土地家屋調査士として登記申請手続代理等の業務を営んでいたものであるが、所得税を免れようと企て、帳簿の備置・記入を全くせず、収入の大半を除外し、家族・親戚等他人名義で預貯金を行うなどの不正手段によって所得を秘匿した上

第一 昭和五三年分の実際総所得金額は四一、〇四〇、九九五円であり、これに対する所得税額が一六、五四〇、八〇〇円であったのにかかわらず、昭和五四年三月一五日盛岡市本町通三丁目八番三七号所在の所轄盛岡税務署において、同税務署長に対し、総所得金額は一〇、六五〇、二四一円であって、これに対する所得税額が一、九五三、〇〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額と右申告税額との差額一四、五八七、八〇〇円を免れた

第二 昭和五四年分の実際総所得金額は四八、六〇〇、二八五円であり、これに対する所得税額が二一、六三八、二〇〇円であったのにかかわらず、昭和五五年三月一五日前記盛岡税務署において、同税務署長に対し、総所得金額は一五、一二九、七二二円であって、これに対する所得税額が三、七五一、一〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額と右申告税額との差額一七、八八七、一〇〇円を免れた

第三 昭和五五年分の実際総所得金額は五一、六〇九、九三〇円であり、これに対する所得税額が二三、九一六、六〇〇円であったのにかかわらず、昭和五六年三月一四日、前記盛岡税務署において、同税務署長に対し、総所得金額は一九、六一四、四一二円であって、これに対する所得税額は五、九二八、七〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額と右申告税額との差額一七、九八七、九〇〇円を免れた

ものである。

(免れた所得金額の内容は、別紙1ないし3の各修正損益計算書の、税額計算については同4ないし6の各脱税額計算書のとおりである。)

(証拠の標目)

一 被告人の当公判廷における供述

一 被告人作成の上申書一二通

一 被告人の検察官に対する供述調書三通

一 被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書二八通

一 大蔵事務官作成の報告書一〇通

一 盛岡税務署長岩沢力三作成の「所得税の青色申告の承認取消し通知書」と題する書面の謄本

一 脱税額計算書三通

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも昭和五六年法律五四号による改正前の所得税法二三八条一項前段に該当するので、所定刑中いずれも併科刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑につき同法四八条二項により合算をし、その刑期および罰金額の範囲内で被告人を懲役一〇月および罰金九〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金三万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

被告人は司法書士兼土地家屋調査士として社会的信用と使命を担っているまさにその業務による所得を秘匿し、判示のとおり三年間にわたり、過少の申告納税をなし、正規の所得税額の約八割強にあたる合計金五、〇四六万余円の税を免れたものであって、国の課税権に対する侵害が大きいばかりでなく、誠実な納税者に与えた不公平感も少なくないことに思いを至すとき、被告人の刑事責任には軽視しがたいものがある。

しかしながら、被告人は本件発覚以来、終始積極的に調査ならびに捜査に協力していることから改悛の情が顕著であること、ほ脱本税、延滞税および重加算税(一、五〇九万八、一〇〇円)の合計七、一五六万九、〇〇〇円(判示三年度分)を納付済であること等の有利な事情があるので、懲役刑の執行を猶予することとする。ところで、執行猶予付懲役刑に処せられると、被告人の司法書士資格が剥奪される(司法書士法六条の三、四条参照)という同情すべき事情も窺われるが、これを考慮したとしても、前記ほ脱の態様並びに金額等に照らすと、被告人に対しては懲役と罰金を併科せざるを得ない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小島建彦 裁判官 竹花俊徳 裁判官 堀満美)

別紙1 修正損益計算書

自 昭和53年1月1日

至 昭和53年12月31日

〈省略〉

別紙2 修正損益計算書

自 昭和54年1月1日

至 昭和54年12月31日

〈省略〉

別紙3 修正損益計算書

自 昭和55年1月1日

至 昭和55年12月31日

〈省略〉

別紙4

脱税額計算書

自 昭和53年1月1日

至 昭和53年12月31日

〈省略〉

税額の計算

〈省略〉

別紙5

脱税額計算書

自 昭和54年1月1日

至 昭和54年12月31日

〈省略〉

税額の計算

〈省略〉

別紙6

脱税額計算書

自 昭和55年1月1日

至 昭和55年12月31日

〈省略〉

税額の計算

〈省略〉

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